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このブクログでたくさんのレビューを読ませていただいていたので、正直、内容的に興味ないな、と読むつもりはありませんでしたが、職場の方が貸してくれたので、読むことにしました。
構成はさすがですね、貸してくれた方は「序盤はぐっと我慢して読まないといけない」と言っていたので、覚悟していたのですが、私は初めからぐいぐい引き込まれました。
まずは婚約者が失踪してしまった架の視点で物語が始まります。その半年くらい前にストーカー被害のようなものを訴えていた婚約者だけに、心配でたまらない架に対して、事件性はないと判断をした警察はもとより、その婚約者の両親の態度にもひっかかりを覚えます。ストーカーによる事件性を感じていた架も読者も「おや?」という思い出した頃に新たな展開が。
割と早めに「傲慢」という言葉が出てきて、「なるほど、こういう架(主人公のひとりです)の姿勢を傲慢というのか・・・」といったん納得しましたが、う~ん、そうなのかな、そんなに傲慢かしら、と少しもやもやしながら読み進めました。
婚約者・真実の地元に赴いた架は、真実が婚活をしていた時にお世話になったという結婚あっせん所のようなところの小野里という女性に会いますが、この小野里のセリフは圧巻でした。ここでしっかりと「傲慢」と「善良」という言葉が出てきます。時代とともに結婚観が変わってきているのは疑う余地のないことですが、社会的な変化、文化的な変化以外にも個々人にこういった変化があったとは。単純に、恋愛において架のように「選べる立場」にある者とそうでないものを比較したとき、架は「傲慢」であり、親の言うとおりに良い子良い子で育ってきた真実が「善良」であるとは言い切れないということがわかってきます。
後半は失踪した真実の物語です。これまで自分の意志で何も決定してこなかった真実が自分で生きていくために東北に向かいます。前半のミステリ的な要素が薄れ、一気に真実の内省的な体験談といった感じになっていきます。
これは「恋愛小説」または「婚活小説」と分類できる物語なのだと思いますが、ただの「恋愛小説」ではないところがさすが辻村深月さんといった感じでした。解説で朝井リョウさんが書いておられたとおり、「解像度が高い」。まさしくそのとおり。恋愛や婚活に関わるときの人間の悪いところ、怖いところ、弱いところ、そして良いところを、ここまで掘り下げるかというくらい、しつこいくらい全てを言葉にして、解像度を上げている。その分、冗長さを感じることもありましたが、凄かった・・・。誰もがどこかには「あるある」「わかるわかる」と共感できるのではないかと思います。
しかし個人的には架の女友達が怖かったというか違和感があったというか・・・もう家庭を持った40代でも、昔からの友達の前ではあんな振る舞い方になってしまうのでしょうか。友達として架の結婚がうまくいかないだろうと反対なら反対で、他のやり方があるだろう・・・と。
また読みたいとは思いませんし、どの登場人物にもあまい思い入れができなかったのですが、「さすが辻村深月!」といった意味で読んでよかったです。
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辻村深月さんの人物描写とか心情描写には本当に唸らされます。こうこうこうだから、こう思ったよね、こんな風に感じちゃうよね、と、日々なんとなくでやり過ごしている感情を丁寧に解説してもらっている気がします。そこまで、しつこく言葉として書きだしてしまっている。素晴らしい作家さんです。
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