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下巻も瞬く間に読んでしまった。
再読だから、もっとじっくり読もうと思いつつも、「ページをめくる手がとまらない」とはこのことだと思った。
隙間時間で読むことが多いのだけれど、そのほんの隙間時間に読んでも、物語の中にどっぷりと入り込めて、さらにその物語の中の音楽に浸っていける、本当に心地の良い読書だった。
三次予選のマサルの演奏、リストのピアノ・ソナタロ短調に対する壮大な物語がすごすぎて、一瞬今私何読んでるの?となって、少しここだけボリュームがあり過ぎた感はあるけれど、一方で、ひとつの曲が(ここではリストのピアノ・ソナタロ短調)、ここまで壮大な物語を弾き手から引き出すという事実を初めて知った、見てしまった、という感じ。後世に残る有名クラシックとなる所以はこういうところなのかと。本選ではさらに、それぞれの演奏の聞き手がファンタジーのように異空間に行く描写が多く、このことを強く感じた。
亜夜とマサルの昔の出会いと、今回の再会や、亜夜と塵の練習中のセッション、亜夜と明石のつかの間の交流なんかは、あまりにも出来すぎ、キレイすぎ、と思うけれど、それでいい、小説だもの(みつを)と思う。
ん?ということはやはりこの物語の主人公は亜夜なんだな、亜夜が軸となって物語が広がってるんだな。マサルは「やっぱりアーちゃんはすごい」と思うし、明石にとってはアイドルであり、ファンだったわけだし、塵は「一緒に音楽を外に連れ出せるのはこのお姉さん」と思っている。
上巻のレビューで明石推しということを書いたけれど、ステージマネージャーの田久保さんも素敵。ちょこちょこっとしか登場してこないのに、「あ、田久保さん出てきた!」とホッとできるし、田久保さんの人となりがこんなにも伝わってくるってすごい。
審査員の三枝子やナサニエルなどの個性も本当によく設定されている。脇役とは思えない。あ、作者にとっては、脇役じゃないのかも・・・
そして、あらためて音楽を言葉で表現することの大変さ、それをしてしまった作者の力量に驚愕する。音楽を形容する言葉の羅列に圧倒され、「これって、どんなピアノなのよーーーーー!!」と大変じれったい気持ちになる。これがたまらない。(変態)
全体を通して、視点がコロコロと変わるところが、なんとなくドキュメンタリーのようで面白いし、これだけの長編でも、間延びしないというか、パキパキと切り替えて読んでいける秘訣なのかなと思った。
得点がはっきりとわかるスポーツと違って芸術の才能って何なんだろう。コンクールで順位をつけていくことの意義を示しながらも、常にこういう疑念がたくさんの人の中にあるのだろうと思った。明石やジェニファー・チャンと、本選まで進んだマサル、塵や亜夜を隔てるものは何なんだろうか。それについての答えはないけれど、結局私たちは好きなように音楽を聴けば良いのだと思う。例えば、上位入賞者のピアノより、先に敗退したコンテスタントのピアノが心に残ることがあれば、そのコンテスタントにも才能があるんだと、弾けない側からしたら、そう思う。
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直木賞、本屋大賞2017を獲った作品はやはり素晴らしかった。改めてコンクールでも、リサイタルでも、生のピアノを聴きに行きたくなりました!
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