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「そして、バトンは渡された」が良かったので、他の作品も、と手に取った本作。
50歳一人暮らし、作家業の男性のところに、生まれてから一度も会ったことのない息子が突然居候にやってくる、という話。
「そして、バトンは渡された」は、血のつながりなんてなんのその、という感じのハートウォーミングだったのに対して、こちらは血のつながりをガチガチに意識するもの。
登場人物に悪い人が全然いなくて、みんな穏やかで優しくて、こちらもほのぼのと心温まる話ではある。だけど、なんかしっくりこない。地に足が着いていないようなふわふわした感じがずーっとあって、そのまま終わってしまった。
小説だからこんなこと言っても、と思うけど、設定から「ん?」と首をかしげてしまうような、現実味がないものだったからかも。
「あなたの子だ」と言われ、毎月養育費は払うけど、一度も会おうとか何か行動を起こしたことがない。その息子が突然やってきてなんだかんだうまく一緒に過ごした。ずっと帰ってなかった実家に帰ってみると、息子とその母親は実家の両親と仲良くやっていた。主人公はそれをずっと知らなかった。かつて「なんだ中身のない女」だと思った息子の母親に再会し、定期的に3人で会うようになる。
あれ、25年の歳月ってこんなに軽かったっけ?と思ってしまった。
いやいや、小説なんだから、どんなに奇天烈な設定でもいいのだけれど、その現実味のない設定すらをも超えて、こう、ぐっと来てほしかった。(←私の語彙力のなさ、表現力のなさよ。)
主人公は息子が来てくれたおかげで、引きこもりに近かった生活が一転、近所の人とも交流するようになって、やはり基本的に人は人と接して暮らすべきなんだなぁ、と思った。その他にも息子の突然の登場は主人公にプラスの影響を与えていて、それは自分の作品に関するところにまで及んでくる。これまで自分の小説は「人間の本質に迫るものを描いていて、それには深い闇の部分も書かなくてはいけない」と暗く重い作品ばかり書いていたのが、そこに疑問を抱き、作品の色も変わっていきそうな気配を残して本作は終わった。
暗く重い話を避けたいときには、ピッタリの心温まるストーリーだとは思うけれど、やはり私は「そして、バトンは渡された」の方が断然好きだった。
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少し辛口レビューをしてしまいましたが、楽しく読めましたよ!
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