【読書感想】丹生都比売 梨木香歩作品集

読書

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大好きな梨木香歩さん。梨木香歩さんの作品は全て読もうと密かにささやかな目標を立てているので、また新たな一冊を入手した。「初の短編集」とあった。9作品が収録されている、美しい紺色の装丁の単行本。肝心の収録作品もとても美しかった。大切にとっておきたいと思う本になった。

なんとも不思議な短編が続き、しかもひとつひとつがとても短くて、私にとっては、”新しい梨木香歩さん”を見ているように感じていたら、急に「コート」が現実的な哀しさで満ち溢れていて、ふいに涙が出そうになった。

そして「夏の朝」。
今までのお話の短さからすると「あれ?」と思う長さなんだけれど、自分の世界観を持った小さな女の子「夏ちゃん」の成長を見守り、語るのは守護霊。この守護霊、幼い頃に亡くなった夏ちゃんのお父さんのお姉さんだということが後々わかる。この守護霊が語ると、一瞬悪役に思える寺内先生も頑張り屋のいい先生なんだと納得できる。「夏ちゃん、大丈夫だよ」と心から応援しながら読み終えると、なんという上品な、素敵なお話なんだ!という感動が胸に押し寄せた。さすが、梨木香歩さん。これ、隠れた名作なんじゃないか、と思った。たぶんどこにでも実はたくさんいる「夏ちゃん」のような子たちに、そしてその子を見守る大人たちに心からエールを送りたいと思いつつ、次の「丹生都比売」へ。

「丹生都比売」・・・う~ん、読めない。「におつひめ」と読むらしい。水銀(みずがね)を産し、清らかな水が流れている吉野の地を統べているご神霊、姫神さまの名前とのこと(検索した結果)。神社もあるみたい。歴史に疎いわたしは、冒頭に記載されている系譜を何度もめくりながら読んだ。天武天皇、持統天皇・・・はて、聞いたことあるぞ?・・・もういよいよ物語も佳境に入るというところで、ようやく昔々学校で習った「壬申の乱」とつながる。我ながら情けない。歴史上の人物を主題にした物語となると、どうしても、どこまで史実なのか、どこからがフィクションなのか気になるところだけれど、まぁ、それはおいといて、というか、読了後そんなことどうでもよくなる。歴史のことが知りたければ別の書籍を読めばいい。
―とてもとても美しい日本語で綴られた物語だった。この物語から立ち上がる気配そのものがなんだか高貴なものに感じられるくらい。余分な言葉が一切ないと言い切れそうなほどの厳選された言葉で進んでいくので、歴史的なことをもっと知りたいという人には物足りないかもしれないけど、ひとつの物語として素晴らしく完成された世界だと思った。神様の「ご降臨」だとか、「霊験あらたかな」ことだとか、いつもは鼻白んでしまうのだけれど、梨木香歩さんの手にかかると、その世界の人知を超えた力と美しさに引き込まれてしまう。さすがとしか言いようがない。草壁皇子については、あまり多くの記録が残っていないようで(たぶん)、この草壁皇子が主人公だからこそこのような美しい物語と成り得たのではないかと思うほど、この皇子の人柄、内なる思いがわかる物語だった。草壁皇子が本当にこの物語のような人物だったとしたら、なんとも生きにくい時代だっただろうなと思う。親に間引かれそうな燕の雛を助けようと必死になる草壁皇子。自分と重ね合わせているのかと思うと胸が苦しくなった。それでも、疑惑のある持統天皇も、ただただ自分の欲のためだけではなかったのだろうと、そう思える草壁皇子の最後だったように感じた。

ラストにそっと添えてあるような「ハクガン異聞」もなんだかすごくよかった。なんというかこれが最後に収録されていることが当たり前というような、ラストにふさわしい短編に思えた。

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うり子
うり子

「丹生都比売」はだいぶ前にひとつの作品として単行本が出版されていたようです。少し違った形で語られたいたようで(?)、そちらも気になるところです。

梨木香歩さんの作品が好きなので、少し興奮冷めやらぬレビューとなってしまいました💦

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