【読書感想】お探し物は図書室まで 青山美智子

読書

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私の本棚はこちら。良かったら寄って行ってください。

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よかったです。とても優しい世界で、よかった。

青山美智子さんの作品は2作目。前回読んだ「木曜日にはココアを」と同様、5つの短編がゆるやかに繋がりあっている。大きな出来事が起こるわけでもないし、すっごく嫌な人が出てくるわけでもない、どうしようもなく胸が痛くなったり、逆にすごくワクワクドキドキしたり、続きが気になってしょうがなかったり、「うーん」とうなるほどやられた感もない。穏やかで心地のよい物語が平易な文章でつづられていて、きっと「物足りない」と思うだろうなと思いながら読んだ。けれど、前回と同じようにいい意味で裏切られた。「物足りない」なんて全くそんなことない。確かに穏やかで温かくて、万人受けしそうなわかりやすいストーリーなんだけど、とても良い。心地よくもあるし、共感できる良さもあるし、いい気づきもある。
そもそも、難しいことを簡単に書くということ、そのこと自体が難しい。人の心の動きだとか、誰もが共感できそうな人生における悩みだとかを、こうわかりやすく表現できるってことは、青山さんに力量があるってことなんだとあらためて思った。
ここに収まっている5つの短編の主人公の誰かひとりには、誰でも共感できるんじゃないかなと思う。

5つの短編の主人公は以下のとおり。

自分の仕事は大した仕事じゃないと悩む21歳の朋香
アンティーク雑貨店を開くことを夢みて、仕事を辞めたくなっている35歳の諒
出産を機に仕事や育児で悩む40歳の元雑誌編集者の夏美
得意な絵を描くということを仕事にできずにニートをしている30歳の浩弥
定年退職後、これからどうしていいか悩む65歳の正雄

個人的には夏美には大いに共感した。というか出産育児を経験した女性なら共感の嵐だと思う。この夏美の話に出てくる、作家のみづえ先生がまた良かった。
でもなんといってもレファレンスのさゆりちゃんがいい。存在感半端ない。夏美の話でのさゆりちゃんのセリフ「どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ」は、「いや、本当にそう!」と大きな声をあげたくなった。もちろん良本かそうでないか、合うか合わないか、などなどあるけれど、本って不思議で、同じ人が読んでもタイミングによっては全く響かないこともあれば、逆に「これ、手元に置いておくわ」的になることもある。本を「そういう読み方をして」、行動して、人とつながって、状況が好転して・・・ってやはり素敵な話ばかりだったなぁ。
このセリフ以外にも、さゆりちゃんはレファレンスブースに入ってきた5人に、絶妙な言葉を投げかける。そして、必ず一冊、一瞬「?」となる本を紹介して、付録の羊毛フェルトをプレゼントする。(さゆりちゃんが5人それぞれに紹介する、一冊だけ毛色の違う本は実在する書籍っていうのも素敵です。手に取ってみたくなる。)

どの短編も、何がいいって、主人公が自分で行動しているところ。みんななんだかんだ素直に行動している。背中を押したのは、さゆりちゃんが紹介した本だったり、周りの人の言葉だったりするけれど、最終的にちゃんと本人が動き出している。あぁ、素敵。とても良い気分で読了した。
「図書室」や「本」などのワードだけで幸せな気分になれる私は、「木曜日にはココアを」より本書が好きでした。

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うり子
うり子

さゆりちゃんが黙々としている羊毛フェルトも気になってきました~。私はたまにミシンをするのですが、ミシンは編み物と違って持ち運んで隙間時間に、ということができないのが悲しいです。羊毛フェルトは編み物と同じで、どこでも隙間時間でできそうでいいな♪

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