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またしてもノーマークの本が手元に届いた。タイトルも作者も初めて知った。これを貸してくれた職場の方が、「うーん、いまいちかな~」という雰囲気で貸してくれたので、あまり乗り気ではなかったけれど、唯一の趣味が読書で、今珍しく積読がないという状況では、これを読まないという選択肢はない。すぐにページをめくった。
主人公は葛幸助。元は大名家お抱えの絵師だったのに色々とあって、「日暮らし長屋」と呼ばれるいわゆるお金のない人達が住まうところで筆作りの内職や瓦版の挿絵を描いてひもじく暮らしている。その幸助の粗末なうちには絵から飛び出してくる厄病神が住み着いているが、幸助は追い出すこともせず「キチボウシ」と呼び、同居(?)している。このキチボウシのせいか、幸助のうちには次から次へと災難がふってくるが・・・。という出だし。
収録されているのは以下の3話。
・貧乏神参上
・素丁稚捕物帳 妖怪大豆男
・天狗の鼻を折ってやれ
時代小説だからか、畠中恵さんの「しゃばけ」シリーズや、髙田郁さんの「みをつくし料理帖」シリーズのいろんな場面が頭をよぎった。歴史に疎いので、「しゃばけ」などと時代的にどれくらい近いのかはよくわからないけれど、江戸時代の平穏な時期の庶民の暮らしぶりがわかるお話はわりと好きなので、予想外に楽しく読めた。
のらりくらりとした話かと思いきや、「貧乏神参上」では殺人事件が起き、「天狗の鼻を折ってやれ」では死人が出る。幸助は「貧乏神参上」で調べをするうちに知り合ったお福旦那と協力して、2つの事件とも、最終的に解決していく。本書では最後まで正体が謎のお福旦那と幸助のチグハグコンビの事件解決は、なんだか人間味があっていいな、と思う。町奉行が全然使えないのに、偉ぶっているところなんかも、ユーモアがあって楽しくて笑える。ふたつの大きな事件の話に挟まれた「素丁稚捕物帳 妖怪大豆男」は小話といった感じでとてもかわいらしい。これはこれで面白かった。
幸助が筆頭だが、お金がなくてその日暮らしでも、仕事がなくて暇をしていても、大店の旦那でも、丁稚や手代、番頭でも、なんだか人間味があるな~、温かいな~と思った。だから読んでいて楽しかったし、読了後はほくほくした気持ちになれた。
災いは自分が被って自分がどうにかすればよいという、隣人愛とでもいおうか、福祉精神とでもいおうか、そんな器の大きな幸助だからこそ、人が慕ってくる。家主なんか、幸助が家賃を滞納しようが、家屋を損傷しようが、ちょくちょく夕飯をご馳走してくれる。
事件解決の道筋も面白いけれど、やはり物語全体に、昔はこうだったのかなと思わせる人と人のつながりや、その間にある温かな思いやりが感じられて、とても心地よく読めた。読んでよかったと思った。
セリフが多いので、リズムもよく、登場人物像も想像しやすかった。
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見返りを求めないというか、己の損得なんか関係ない人情味あふれる人と人のつながりにほっこりしました。舞台となる時代が現代とは違うからそう感じたのでしょうか。
それから、また「みをつくし料理帖」シリーズも読み返したくなりました。
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