【読書感想】ぎょらん 町田そのこ

読書

ブクログに投稿した感想をこのブログにも載せています。

私の本棚はこちら。良かったら寄って行ってください。

**********

うわー、なんか大作だったな~というのが読んですぐの感想でした。
最初から最後までずっとついてくる「死」が、「死」への向き合い方が、悪い意味ではなく、重くて重くて・・・あぁ、読み切ったと、細切れに読んでいるわりには、少しの疲労さえ感じました。

ぎょらんとは。死者が残す最後の願いが形になったもの。それは朱い珠のようなもので現れることが多く、死者の体がこの世から消えるとともに消滅する。そしてそれを口にし、死者が遺した思いを知ってしまった者は、以降、それに大変苦しむことがある。

ぎょらんの説明はざっとこんな感じで間違っていないと思うが、7つの短編が進んでいくうちに、ぎょらんには地域等による呼び方の違いがあったり、そもそも死者が残すものではなく、この世に残された側の思いが形になったもの、という説も浮上してくる。

全ての短編を通して核となるおそらくこの小説の主人公と言ってよい朱鷺はこのぎょらんに長年苦しみ、その間はニートとなり、ニートから抜け出した後も結局はぎょらんを検証し続けることになる。そんな主人公なのに、こんなこと言っては何だが、結局大事なのは「ぎょらん」ではなく、「死」をどう受け止め、遺された側の絶望的な悲しみや悔恨を、どう昇華させていくのか、そもそも後悔のない別れとは、などではないかと思った。思ったものの、ぎょらんを実際に見つけて口にした朱鷺がその検証を、残された人生をかけておそらく続けていくことに納得してしまうのも、全ての短編でぎょらんを見つけたり求めたり縋ったりする様々な残された人たちの物語を読んだからだと思う。

自分の整理のために、短編のタイトルと語り手を列記しておこう。

・「ぎょらん」 (語り手)華子:朱鷺の妹
・「夜明けのはて」 (語り手)喜代:朱鷺が務める葬儀屋で夫の葬儀を行う
・「冬越しのさくら」 (語り手)相原千帆:朱鷺の上司
・「糸を渡す」 (語り手)美生:朱鷺がよく行くコンビニの高校生バイト
・「あおい落ち葉」 (語り手)笹本小紅:朱鷺の同級生
・「珠の向こう側」 (語り手)ふたたび華子:朱鷺の妹
・「赤はこれからも」 (語り手)美弥:ぎょらん検証サイトで朱鷺とメッセージをやりとりする 

こうやって思い返してみても、ひとつひとつの短編に、それはそれは大きな出来事があり、もっとたくさんの重要人物も繋がりあっていて、やはり「大作」だったなと思う。

最初の短編「ぎょらん」は軽い感じの表現もあってクスッと笑ってしまうとこも多々あり、おもしろいな、こんな感じか、と読み進めると、どんどん重くなる。朱鷺の事情が明らかになるにつれ、私は夏目漱石の「こころ」を思いだした。

どれかひとつを選ぶのなら「冬越しのさくら」が好きだったかな。登場人物の中では、朱鷺と華子のお母さんが魅力的な人だった。あんなふうにどっしりと構えた母親になれたらなと思った。

いつの時代も誰にとっても避けては通れないけれど、なんだかんだタブー扱いされているような「死」について、真剣に向き合った結果、人間の汚い部分(それくらいの側面は誰しもが抱えていると思うけれど)をもきちんと書いた小説だと思った。

2023年も残り2か月を切って、「今年のベスト3」なんてものをふと考えたときに、本書も候補になりそうだけど、もう一度読もうとはなかなか思えない、重さがあった。重ねて書いておくけれど、良い意味での「重さ」だった。

それにしても、町田そのこさんの作品は初めてでしたが、すごいインパクトでした。他の作品も読みたいですが、なんとなく心して読まなきゃと思っています。

**********

うり子
うり子

初っ端、ニートの朱鷺が暴れているのに冷静沈着なお母さんと、叱責する妹、そして反省しながらも「”おまえ”ではない、”お兄ちゃん”だ。」なんてことをビクビクと妹に言う朱鷺が面白かったのですが、全体としては決して軽い内容ではなく、その初めの印象をずっと覆されている感じの読書でした。また気になる作家さんが出てきたな、と読後は嬉しかったです!

コメント

タイトルとURLをコピーしました