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図書館から「予約本が届きました」と連絡が来て受け取ってみたものの、なぜこれを読もうと思って予約したか、すでにあまり覚えていなかった。
本書は著者の滝口悠生さんが、アイオワ大学で開催されるIWP(インターナショナル・ライティング・プログラム)に参加した時の日記である。日記と書いてあるから、当たり前だけど、滝口さんのアイオワでのあれこれが綴られていて、読みたい本が山とあって時間が足りないのに、なんで私は人の日記なんか読んでるんだろう、と思いながら読んだ。
滝口さんは、そもそもこのプログラムになぜ呼ばれたかよくわからないまま参加し、わからないまま日記を本にしたというところが面白い。前年度参加の作家さんも、一通のメールがきて、それで参加したらしい。色んな国から作家が集まる中、英語がままならない滝口さんは、それでもなんとか約10週間をアイオワで過ごしたんだから、もうそれだけですごい。そりゃ、ただの日記とは違うわ、と思った。海外で奮闘する話を読み聞きするたびに痛感することは、私にはこういう経験がなさすぎる、ということ。言葉だけでなく、習慣やマナーや考え方、感じ方が違う人たちと混ざりあって生活して、大いに苦労する、ということを若い時にしたかったと、歳をとるにつれ強く思う。
この日記の中で、当然だけれど、滝口さんとプログラムを共にしたライターたちの名前がカタカナでたくさん出てくる。私が語学が弱い一因だと思うけれど、とにかくカタカナの名前が全然覚えられない。本書がぶ厚かったのと、時間がないのとで、ななめ読みになってしまったことも良くなかったのだけれど、名前が出てくるたびに、この人どこの国の人だったっけ、とあやふやな記憶で読み進めてしまった。反省。
途中、滝口さんが雑誌かなにかに投稿したチャンドラモハンというインドから来た詩人についてのエッセイが掲載されていて、そこにこんな文章がある。
「・・・私たちはやがて別れて、多くのことを忘れる。私はチャンドラモハンと、その他の作家たちと、やがて忘れてしまう私たちの過程の、途中にいまいる。」
あ、これだと思った。私がこの本が気になって図書館で予約したのは「やがて忘れる過程の途中」というタイトルがいいなと思ったからだった。なんか、端的に「暮らし」とか「生活」とかもっといえば「人生」を表している気がして。私たちは忘れたくなくても忘れてしまう。どんなに書き留めても忘れてしまう。それでもいろんな経験をしていく。「忘れる」ということは救いでもある。あぁ、そうだ、私たちは常に「忘れる過程の途中にいるんだ」となんだか壮大な思いに浸った。
ところで、本書の感想ではないけれど、アイオワ大学はアイオワシティ全体がキャンパスのような状態らしく、つまり日本と違って、町全体に大学のキャンパスや施設が点在していて、ここからが大学の敷地ですよ、というような作りではないらしく、これはオックスブリッジなんかもそうだという認識なんだけれど(合ってるのかな?)、それっていいな、と思った。単純に比較すると日本の大学はなんとなく閉鎖的だし、大きな大学ほど、広大な敷地を確保しようとして、少し便が悪いところに引っ込んで、本来、もっと密着すべき都市や一般市民から離れてしまう傾向がある気がして、なんとなく淋しいな、と。一概にどちらが良い悪いではないかもしれないけれど、そんな大学で大学生活をエンジョイしてみるのもよかったな、と。
それから、滝口さんが日本語で読み書きする私たちは恵まれているという気づきをされていて、それは私にとっても新しい気づきだった。滝口さんが英語が苦手なのにこのプログラムに参加できるほどのサポートがあるということもその気づきのひとつだけれど、日本語に翻訳されている世界の本は多い、ということに、あぁそうなのか、と思った。他国からの参加者が古書店で英語の本を買い漁る様子を見て、滝口さんは、彼らがそもそも英語で本が読めるのも、読みたい外国語の本が自国の言語に訳されていない場合が多いという環境が背景にある、と気づく。私は日本人作家さんの本ばかり読むから実感としてはそんなにないけれど、そうか、日本語になっている外国語の本は多いのだなと思った。(ちなみにうちにある絵本は圧倒的に外国のものが多いです。もちろん翻訳されたもの。)
プログラムの終わりになるにつれ、参加者との別れを惜しむ気配が濃くなり、ななめ読みしていたわりには、なんだか私まで無性に淋しい気持ちになった。あの人とあの人には地理的にもまた会えるかも、でもあの人には・・・みたいな記述になるともう、なんかアイオワが懐かしい気にさえなってきた(行ったこともないのに)。
ということで、結構楽しめました。
軽いタッチの日記が続くかと思いきや、途中途中、滝口さんの深い思考がさらっと入っていて、急にはっとさせられたりします。ななめ読みが悔やまれます。(とりあえず返却せねば。)
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「なんだ、ただの日記か」と読み始めたものの、なんだかとてもよかったです。本になるだけあります!(←上から目線)こんな日記を書けるようになりたい・・・(切実)
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