【読書感想】須賀敦子全集 第1巻 須賀敦子

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再読。
須賀敦子といえばイタリア。そのイタリアに絡む作者自身の経験などを語っているエッセイなんだけれど、当時としては珍しい海外経験をひけらかすわけでも、夫を早くに亡くした苦労を押しつけがましく語っているわけでもなく、ぽっと温かな火が灯るように心に思い出された出来事を、優しく見つめ返しながら綴っているようなエッセイだった。須賀敦子の「経験」といったらそれまでだけど、そこにとどまらない何かがあるエッセイだと思う。何がこんなに多くの人を須賀敦子の文章に惹きつけるのか。それを考えながら読んでみたいと思って再び手に取ったけれど、すぐに意識は須賀敦子のイタリアへ飛んで行ってしまって、結局わかったことは、やはり須賀敦子の文章が好きだということ。まぁそれでいいか、研究者でも評論家でもないし。

ここに収められているのは以下。
・ミラノ 霧の風景
・コルシア書店の仲間たち
・旅のあいまに

ガッティ、カミッロ、ルチア、ミケーレ、ニコレッタなどなど、たくさんの友人知人との交流が語られており、須賀敦子が、当時としてはおそらく珍しいであろう日本人としてだけではなく、ひとりの人間として、多くの人に信頼されていたことがわかるようだった。そして色んな境遇の知人友人を受け入れる須賀とペッピーノの懐の深さ・・・。この、人と人の繋がりは、時代によるものなのか、夫妻の人柄によるのか、どっちもが作用しているように感じた。それにしても、知人友人を語る須賀の言葉の中に、それぞれの背景がしっかりと書かれていることに驚く。好奇心か、探求心か、はたまた本当にその個人が好きで知りえた事なのか、歴史的、地理的な事実を織り込んで語られる須賀の友人たちはいつしかしっかりとした「ひとりの人」となって胸に迫ってくる。

誰がどう見てもあの時代にヨーロッパへ行けるなんて、生まれからして境遇に恵まれていることは間違いないのだけれど、それを自らのチャンスにしていった須賀敦子の強さに驚嘆する。淡々と書かれているから見落としがちだけれど、フランスに馴染めなくてイタリアに次の道を見出す強さ、イタリアの知識人相手に自分の意見を言ったり、認めてもらえたり、仕事をもらえたりする強さ・・・今の時代でもままならないであろうことをやってのけた須賀敦子の、そうか、その強さに惹かれるのかもしれない。

彼女が飛びぬけて優秀だったことも間違いないと思うけれど、自分が選んだ自分の好きな道に邁進し、それだけでなくちゃんと稼ぐ力も身につけ、男性に頼るわけでもなく女性としてしっかりとひとりで立っていた、そのことに強い憧れと一種の気後れを感じる読書だった。

それにしても、今まで、ぼんやりとしたイメージでしかなかった「コルシア・デイ・セルヴィ書店」がどういうものだったのか、再読してやっと少し、分かった気がした。

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うり子
うり子

再読してよかったと思った。初めて読んだときは、なんだかすごいとばかり思っていた須賀敦子の経験や文章の美しさがもっと骨身にしみた気がする。ふいに涙が出そうなところも数か所あった。須賀敦子の夫や知人友人、イタリアへの特別な思いをより感じることができたと思う。

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