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面白かった!三浦しをんさんは「風が強く吹いている」、「舟を編む」や「神去シリーズ」が好きで、お気に入りの作家さんのひとりなはずなんですが、なぜか私の長い長い読みたい本リストの中には三浦しをんさんの新たな作品が入っておらず、久しぶりにお目にかかった気がします。知人が貸してくれたのですが、人から借りるとこうやってノーマークの知らない作品を読む良い機会となるので、ありがたいかぎりです。
さて、本書は、タイトルの通り、古い洋館に住む4人の女性について描かれたもの。
鶴代、その娘の佐知、佐知の友人の雪乃、その後輩の多恵美の4人。この4人の名前を見て、「お?」と思われた方はさすがです。どうやら谷崎潤一郎の「細雪」へのオマージュのようです。と、言ったものの、私、文学作品や名作、古典といったものを全然読み込んできていないので、全くわからないのですが、オマージュというのは確かなようです。
鶴代と佐知の母娘のところに、雪乃と多恵美が転がり込んでいる設定も普通ではないですが、なんとこのおうち、かつてはりっぱな洋館だったようで、離れというか守衛小屋のようなものもあり、いまだにガードマン気取りの山田というおじいさんも住んでいるという変わった人間関係なのです。
この4人が住まうところは東京杉並。阿佐ヶ谷駅から徒歩20分ほど、善福寺川がうんむんかんぬんとあるので、かなり具体的です。グーグルマップを見て楽しみましたが、都内に住んでいたら散歩がてら行ってみたい気がします。
で、この4人の風変りな同居生活、珍騒動のあれやこれやもおかしいのですが、なんといっても余計な文章がおもしろい。いや、「余計」な文章のはずないのですが(笑)たとえば、ガードマン山田を、高倉健に憧れているらしいという憶測から、出来損ないの高倉健と(心の中で)呼んだり。いや、「文章がおもしろい」ということを説明するための好例は他にもいっぱいあったはずなんですが、なぜかこの山田さんを高倉健にもっていこうとする文章が記憶に残っていて、これを紹介してしまいました。なんというか、ちょっと毒舌だったり、物事を斜に構えて上から目線で見ているような表現をしたり、かと思えば、くだらないこと言うので「なんでやねん」とつっこんでしまいたくなるような一文があったり。真面目なのかふざけているのか。つまり、話のあらすじとかなんとかの前に、好きなタイプの文章でした。これを貸してくれた知人は、「なかなか進まなかった」と言っていたので、本当にこれは好みの問題なんだと思いますが、この真面目なのかふざけているのかみたいな文章がダラダラ続きながら、ゆるりと進んでいく感じ、良かったです。ダラダラと感じるのは、「真面目なのかふざけているのかみたいな文章」がだいたい心情描写のところでたくさん顔を見せ、物語の進展を止めているかのように感じるからだと思います。谷崎潤一郎の「細雪」もこんな感じなんでしょうか?(←完全に無知)
佐知が母の鶴代を、雪乃が佐知や鶴代、その二人の関係を、という具合にそれぞれがそれぞれをマンウォッチし、思ったこと感じたことをつらつら書いているところなんかは、作者の力を感じます。人間の本質や人間関係の描写って作家としての力量が分かる気がするのです、私は。ちょこちょこ視点が変わるところがなんとなく引っかかっていたのですが(良い悪いではなく「ほぅ、こういう書き方ね」的な意味で)、そこについて後々わかることが出てくるので、「ほほぅ」となりました。(←何の説明にもなってない。何も言葉が浮かばず悔しい。)
女4人のゆるりとした穏やかな生活が読者に「こんな生活もいいかもね~」「都内に土地があってしかも庭付けでいいじゃない。年寄りだけど守衛さんもいるし~」なんて思わせながらもきちんと驚きの事件が起きるのです。今回のレビューはなぜかあまりネタバレを含みたくない気がするので、書きたいけれどこれ以上書きません。(←何その宣言)。
カラスの善福丸が語り始めたり、いきなり出てきた「私」が語り始めたり、「えぇ?!」「おぉ!!」と思わされること度々。苦手な方もいるかもしれませんが、急なファンタジーも、私は楽しめましたし、さすが三浦しをんさんだと思わされた小説でした。私はとても楽しく読み終えました!
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いやー、久々の三浦しをんさん、面白かったです~。例えば「そこは読者にも真実をまだ知らせないで、後々わからせていくでしょ、普通」と思うようなところを、さらっとカラスに語らせたりして、そこがファンタジーチックで意表を突かれた気持ちになった。不動産収入で暮らしていたり、刺繡作家だったり、普通のOLだったり、いろんなタイプの4人の女というのが、よかったです。
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