【読書感想】ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う 坂本貴志

読書

ブクログに投稿した感想をこのブログにも載せています。

私の本棚はこちら。良かったら寄って行ってください。

**********

多くの方の評価通り、良書でした!本書は「定年後」のことだけと思わず、ぜひ多くの人に読んでもらいたい。働き方や主に中高年が定年へむけてどのようにキャリアへの考え方を転換していったらいいかなど、「働くこと」について、たくさん考察できると思う。

私の定年退職はまだ先だけれど、早期退職も視野に入ってきて、経済的に困っていない人たちが早期退職を狙っているという噂を耳にしたり、今の働き方に疑問を持ったりしているうちに、本書が目に留まり、読み始めた次第です。

本書は大きく分けて3つにわけて構成されている。
第一部ではデータに基づいて、定年後の仕事の実態として、15の事実があげられている。
ここでは、たくさんのデータに基づいた現状が語られ、そこから、筆者の考えが押しつけがましくなく展開されている。ここは表やグラフなどがたくさん示されているからこそ、かなり説得力があった。老後に漠然とした不安を抱えている人にとって、その「老後の不安」は結局「お金の不安」と言い換えられるのではないかと考えると、案外、老後の支出は少ないものだという事実などには、安堵するのではないだろうか。その他にも、「持ち家か賃貸か」、「年金は繰り下げ受給すべきかどうか」など、正解がなく、その人その人にあった選択肢を選んでいく必要がある事柄について、自分はどうすべきかどう考えるべきかのきっかけ・ヒントになるとても素晴らしい手引きだと思った。

定年後の働き方にヒントを与える本書の趣旨からは少しずれてしまうが、どうしても今の自分の働き方や、仕事の必要性などに疑問を抱いている私としては、「事実10」がとても響いた。
著者曰く「日本社会は人の生活に不可欠な仕事が正しく評価されていないという現状に、もっと正面から向き合うべきではないか。そして、デスクワーカーの待遇改善を行うよりも、むしろ現場仕事の待遇改善によってこのミスマッチを改善すべきではないのか。」。
なんとなくくすぶっていた思いを端的に言語化してくださっていた。
また、ホワイトカラーでキャリアを追い求めることが社会的に望ましいとなってしまったが、デスクワークの仕事に対する需要はそこまで大きくない。なぜなら、IT化でデスクワークの仕事は効率化され、デスクワーカーがすべき仕事は減っているからだ。それなのに、従業員の雇用を維持するために無理をして仕事を作り出している側面もあるのではないか、とまで考察されている。「無理をして仕事を作り出している」わけではないとしても、私も常日頃から「事務のための事務」をしているようだと感じているし、あまりにも無駄な作業に、なぜITを利用しないのか、と憤慨する場面が多々ある。
このようなホワイトカラーの事務職・管理職に対して、エッセンシャルワーカーとも呼ばれる「現場仕事」の必要性、その待遇改善の必要性を唱えておられ、大いに賛同した。
そうした著者の主張は、「定年後」とどうつながっていくかというと、つまるところ、生活に必要で、生活を豊かにしてくれるこのような現場仕事をどこかで自分より下に見て、生涯そのような職に就くことはないと決めつけていないか。そのようなホワイトカラーのキャリア志向は生涯にわたって必要だろうか。今後いくら情報技術が発達してもなくならない現場仕事を自分と無縁とは思わず、生涯のライフサイクルのどこかで無理なくそのような職に就き、社会に貢献することを考えてもいいのではないか。
だから「事実10」は「デスクワークから現場仕事へ」となっているのだ。
もしも、デスクワーカーの仕事が本当に必要なものだけになって人員整理が行われたり、デスクワーカーより現場仕事の待遇改善が優先的に行われたりしたら、私にとっては自分の首を絞めることになるのだけれど、そうなったとしてもこれは本当に正しい主張だと思った。そして、この著者の主張は第3部への提言にもつながっていく。

第二部は定年後の就職者の事例が7人分。具体的にどんな仕事をしているかが参考になるというよりは、仕事や暮らしに対してどのような考え方、向き合い方をして、その仕事を選択するに至ったかが大変参考になると思う。著者も何度か触れられている通り、50歳前後で、仕事への向き合い方に転機が訪れる人が多いようで、そこも含めて7名の定年後の働き方が示されていた。私の場合は少し早いけれど、「出世を目指したいのか」「適当に楽な地位にいたいのか」「育休で(出世が)遅れた分どうするのか」などなど悶々と考えていることが「仕事への姿勢の転機」だと考えると、これが定年後または早期退職後の働き方への考えにうまくつながっていってくれたらいいなと思えた。ここでのまとめとしては、「健康的な生活リズムに資する仕事」「無理のない仕事」「利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事」が定年後の豊かな仕事の共通点であるということだった。

第三部は第一部、第二部を踏まえて、社会が定年後の仕事に対してどのように向き合っていけばよいかについていくつかの提案があげられている。
これまで長い間デフレだった日本においては、質の高いサービスや高品質の物を低価格で求めるという姿勢が多くの消費者にしみついているように私は感じていて、著者も同様に考えているようで「日本の消費者がこうした利益を放棄し、小さな仕事で働き続ける人に適正な対価を支払う覚悟を持てるか。働き手が不足し、その希少価値が高まっている現代において、こうした痛みを日本に住む全ての人が受け入れ、消費者優位の市場環境を転換させていくことができるかが、今問われている」と書かれている。また、「日本社会は小さな仕事で働き続ける人たちにたいして、あまりにも冷たい社会なのではないかと私は感じるのである。」、「これからの時代、日本社会にとって本当に必要な仕事が何かが見えてくるのではないか。私たちは身近な仕事の重要性に立ち返る必要があるのではないかと考えるのである。」と主張している。これは私が強く賛同した第一部の「事実10」につながる。

これからは「定年後は年金でゆったりと暮らす」といった社会ではなくなることは明らかである。定年後の人々は、経済的な理由であっても、身心の健康のためといった理由でも、その人に応じた働き方をしていく必要がある。そして、少子化が急速に進んでいく日本社会としては、そういった方たちの労働力も大変貴重になってくる。現場仕事、生活に密着した仕事、小さな仕事にもきちんとした対価と感謝を示せる社会になっていかなければならない。本書の主張はそういうことだろうと思う。

とても考えさせられる良書でした。定年を見据えつつも、今の働き方をも考えさせられました。主に中高年以上におススメかなと思いました。(私も若い頃に読んでいたら響かなかったかもしれない。)

**********

うり子
うり子

若い頃、小さく収まっているように見えた中高年の先輩方に対して、「そんな働き方で楽しいのかなー」とか思ったこともありましたが、今自分がそのような年齢になり、そして本書に書かれているような「働き方」や「仕事」についての考え方の転換期にきて、「あぁ、そうか」と妙に納得がいく今日この頃です。「働き方」に正解はない。だからこそ、自分で、自分なりに考えていきたいと思いました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました