【読書感想】宙わたる教室 伊与原新

読書

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私の本棚はこちら。良かったら寄って行ってください。

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やはり私は「教師もの」に弱いみたいだと再認識しました。見るからに熱血教師というわけでなく、こう、静かにそっと生徒に寄り添って、その生徒にとって大きな何かをしれっとやってしまうなんて、かっこいじゃないですか!藤竹先生はまさにそんな先生でした。
藤岡陽子さんの「金の角持つ子どもたち」の加地先生(加地先生先生は塾の先生だけど)とか、瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」の向井先生とかを思い出します。正確に言うとこの二人の先生の名前までしっかり覚えていたわけではなく、今調べたんですが、やっぱり「この先生、素晴らしい!」と感動した記憶は残っているわけですよ!(←レビューとは関係ないところで熱弁)

舞台は東京新宿にある新宿東高校の定時制。そういえば、私の母校にも定時制、ありました。入学した当初、この教室を夜には別の人たちが使っているんだとふと不思議に思った記憶こそ残っているものの、本当にそれだけでしたので、今回はまた知らない世界を本で知ることができました。

何らかの事情で昼間に高校に通うことのできない人たちが通う定時制。様々な人たちが同じ教室に集います。

・本当は学ぶことに意欲がありながらもディスレクシアというハンデがあり、しかしながら誰にも気づかれずに、サポートも受けられずに、本人も藤竹から指摘されるまで知らずに、学校という場所から離脱してしまった、見た目はバリバリ不良の柳田岳人
・日比ハーフで、夫とフィリピン料理屋を営みながら定時制に通うも、漢字や数学などが苦手で授業についていくのを諦めかけている越川アンジェラ
・アンジェラと同じく日比ハーフで、まだまだ若く、先生になるという夢がある池本マリ
・起立性調節障害のため、高校進学を諦め、定時制に入学したものの、保健室登校を続け、過去に「リスカ」を繰り返したことのあるSF小説好きの名取佳純
・集団就職で上京し、必死に働いてきて、失った学ぶ機会を得るために定時制に通いだした最年長の長嶺省造
・この物語の舞台となっている高校の全日制に通うコンピューターオタクの丹羽要。彼にも抱えている大きな家庭問題がある。
・そして藤竹。大学に籍をおきながら研究も続けているらしく、つかみどころがない先生。藤竹はなぜ定時制の教師になることを選んだのか。

章ごとにメインとなる人物が入れ替わり、それぞれが藤竹の手引きによって、科学部へ近づくことになります。
アンジェラが主人公の第二章はアンジェラとマリの境遇に涙がでそうでした。「可愛そう」ではなく、「よくがんばってきましたね、これまで」、という意味で。つくづく、どんな環境におかれた子であっても教育の機会を奪われて良いわけがないと思います。周りに気づいてくれた大人がいた人はラッキー、そうでなかった子は残念だったね、では、絶対にいけない。これはもう行政をはじめ、社会全体で目を向けるしかないような気がしますが。「教育」や「学ぶこと」は健康と同じくらいその子の財産になると思います。
また、佳純がメインとなる章での、保健室の養護教諭である佐久間が語る話は、きれいごとだけではない現実を突きつけられたようではっとさせられました。いわく、問題を抱えた生徒全てを救うことはできないから、”トリアージ”をしなければならない、と。ほかの人をも自分の方へ引きずって危険に晒そうとしたり、自分で立ち上がろうとしない生徒は、”トリアージ”的には救えないと。真耶について、おそらくネグレクトであろう保護者に頼るしかないという現実に胸が痛みました。

さて、一番実験に熱心な柳田に引きずられるように、アンジェラ、佳純、省造も科学部の活動に熱を入れ始め、彼らの目標は、火星のクレーターを再現するという実験を「学会発表」する、という大きなものとなっていく。

物理化学全般がどうにもこうにも苦手な私には実験の原理原則などちんぷんかんぷんでした。文字を追っていても実験装置が絵となって頭に浮かぶことが全くない。あぁ、物理化学がもっとわかったらと悔しかったです。そしたら、この宇宙のことがもっとわかるんだろうなと本当に残念に思いました。この気持ちのまま高校生に戻りたい。戻って数学物理化学をやり直したいと心底思いました。あんなに「学べる場」にいたのに。

話がそれました。

一度は科学部は空中分解してしまったり、実はこの科学部そのものが藤竹の「実験」だったという告白があったりしながらも、雨降って地固まるといいましょうか、科学部は見事、目標学会での発表、それどころか優秀賞まで勝ち取ります。
そして、藤竹の「実験」の仮説「どんな人間も、その気にさえなれば、必ず何かを生み出せる。」が正しかったと証明されます。なんと、新宿東高校定時制科学部はJAXAの実験に協力をお願いされるのです。

あとがきを読んで驚きました。モデルが実在していたのです!本当にそのモデルの定時制科学部は2017年の日本地球惑星科学連合大会で優秀賞を受賞したというのです。彼らの活動に感銘を受けた作者がこうやって物語にして、もっとたくさんの人に知られることになる。感動の輪が広がる。はぁぁぁ、素敵ですね。

読んでよかったです!良い読書でした。

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うり子
うり子

こういうさわやかな読後感の本は、なんというか、日常にぱぁっと青空をくれるような気がしますね。例えば通勤途中の電車の中で読んでいたとしても、ぱぁっと心に青空が広がるような。そして、誰かが夢に向かっていく話にはいつも元気をもらえる気がします。

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