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すごく気になっていて、もしかしたら好きな作家ベスト3に入っているのではないかと思っている津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみようと決め、んばばばば!と買ってみました。
まずは、一冊目。8つの短編集が収められている本書。
ひと作品を読み終わって次に進むごとに「津村色」が濃くなっていく気がして、うひひと嬉しなりました。ちょっとひとつずつ見返してみよう。
・レコーダー定置網漁
目の付け所が、さすが。主人公の会社に採用されることを希望している学生のSNSをチェックし、採用後、会社にとって危険な人物になりそうな、そんな投稿をしていないか確認するという仕事に疲れたため、リフレッシュ休暇をとっているという状況。そんな仕事あるんだ?!という実在の有無のラインの微妙なところに設定をし、実際にはそんな仕事なかったとしても、「情報過多」である現代人にはわかりみが強すぎる設定で、さすがだなと思わされます。自分が施した録画設定が、希望の番組が終了してもなおも録画を続け、そこに何が録画されているのか、ちょっと楽しみにしてしまうことを「定置網漁」と呼ぶネーミングセンスの良さにも脱帽。徐々に気力を取り戻していく様子が良かったです。
(えぇ、この調子で8つ分書いていったら長くなるな~)
・台所の停戦
これは読みながら切なく、ちょっと胸が痛んで、でも最後は希望の持てるお話でした。祖母・母・娘の3人暮らしの台所で起こることを描写することで、3人の関係、特に「母-娘」の関係を見事に表現しています。つまりこの物語には2組の「母-娘」がいることになります。
津村さんの作品には、こういった母娘関係がよく出てくる気がします。なんというか、決して、娘に愛情を注いでいないわけではなく、もちろん虐待なんてないのですが、何かにつけ娘を否定してしまったり、娘をまるっと受け入れることができなかったりする母親に対して、娘が少し傷ついている、というような。本当に最後希望があって良かった。
・現代生活手帖
これを読み始めて、「これこれこれ!」とひとり沸き立ちました。津村作品にはこういうの、あるんです。読み手としても「待ってました!」というもんです。以前読んだあれやこれを思い出しました。自治体が発行する「現代生活手帖」を読みながら、何を購入するか、どのサービスに申し込むかと悩む主人公は、すでにロバによる配達サービスを利用している。「遅れても許せてしまう」から良いサービスなんですって!面白い!この世界では、テーブルをこすることで色々なことができてしまうようで、近未来的な雰囲気がまた楽しい作品でした。
・牢名主
A群による色々な形はあれど、ある意味支配的な圧力を受けて傷ついたB群の人たちが行きたい時にだけ行ってよいサークルというような会での出来事を中心としたお話。抽象的なのに、すごく具体的な感じがして、これもまさに「津村さんによる作品」だと強く思いました。この作品自体が好きとか嫌いとかないけれど、津村さんの力量を見せつけられる作品だと思いました。
(まだ半分・・・)
・粗食インスタグラム
あ、これが一番ライトな印象しか残っていないかもしれません。すっごい美食について投稿したSNSを見ると気分が悪くなってしまうから、自分の粗食を投稿し始めた女性の話。粗食の投稿ごとにエピソードがあって、その「普通の日常」の描き方がうまい。本当に津村さんって、何でもないことを、多くの人がスルーしてしまうようなことを全て文字にしちゃうんだな~と思いました。話の細かいところをすでに忘れかけているというのに、これが一番、現代社会に疲れている人たちに「ゆるっといこうよ」と言っているような作品でした。
・フェリシティの面接
これもまた不思議な雰囲気をまとったお話でした。まるでロボットのようなフェリシティ・・・それに「ロンドン」だとか「殺人事件」とか、今まで私が読んできた津村作品にはなかった気がする単語がでてきます。主人公のアパートで起こった事件をさらっと解決してしまうフェリシティって何者・・・?読後、ついついググってしまいました。なんと、アガサ・クリスティが生んだ名探偵エルキュール・ポアロの秘書であるミス・レモンだそうです!アガサ・クリスティの作品はひとっつも読んだことがありません!こういう時、自分の読書の偏りや、読書界隈の常識というものに疎いことに、床をダンダンと踏みながら情けなく悔しく思います。
・メダカと猫と密室
津村さんお得意のお仕事小説でした。上司の理不尽な要求で休日出勤して、さらに待ちぼうけを食らわされている間に起こる小さな出来事をすばらしい筆力で書き上げた作品。大きな出来事が起こるわけではないのに、続きが気になる。その時間の経過とともに起こる小さな出来事や主人公の気持ちの動きに対する表現力が圧倒的にうますぎて、すごい満足感を得て読み終えました。そういえばフライングタイガーのノートってずっしりしていますよね~。
・イン・ザ・シティ
オタクのキヨと、キヨとは正反対な性格(というか学校内でのキャラクター?)だと思われるアサが、偶然にも友達になり、ゲームで作った街から着想を得たキヨが架空の街(というか国?)を作り上げ、アサに少しずつ披露していく。家庭科の授業中にやりとりしているため授業をあまり聞いておらず、実践でミシンを使うという段階では全くお手上げ状態になってしまった二人に何も文句を言わず手を貸す加藤がよい。というかこの加藤の存在、すごくよい。キヨは架空の街を作り上げることに熱中しているかと思いきや、急にスケートボードを始めたり、それを加藤が見守っていたり、アサの母親が弟の学校欠席について容認しており、そのことでアサに嘘をついているという小さいようで(特に子どもにとってみれば)大きな問題があったり、どうしたらこんなことを思いつくんだという内容になっていて、そしてそれがちゃんと物語として落ち着いていて、本当にすごいと思う。こういった日常を描くことは、ドッカンとかバッタンな出来事が起こる非日常を描くよりずっと難しい気がします。キヨとアサと加藤に幸あれ。
もう疲れたので、これぐらいで終わりにします。とにかく「津村記久子すごい」。以上でございます。
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私が思う”津村記久子っぽい!”は「現代生活手帖」、「牢名主」、「メダカと猫と密室」でしたが、他の読者さんたちはどう思われましたか?(←誰に聞いてるの)
いずれにしろ、面白かった。もうそれで充分。

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