【読書感想】香君4 遥かな道 上橋菜穂子

読書

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アイシャの物語がこれで完結しました。
本当に壮大で、私の貧祖な想像力ではなかなか追い付かないファンタジーでした。

「救いの稲」やその他の植物までもを食い尽くす「天炉のバッタ」の被害が東西カルタンで急速に広まっている中、完全にその害虫被害を撲滅するためにアイシャは帝国を含む全土のオアレ稲の焼却が最善だと考えます。しかし、当然ながらまだ被害の及んでいない藩国では、その必要性を疑い、焼却後の困難を予想して、当然反対の声を上げます。
ウマール帝国の陛下を説得しようと試みるアイシャやマシュウですが、それぞれの立場や地位の本音や建前が渦巻いて、(私の中で)議論は混とんとしてきます。何が正解なのかなんて、結局事後にしかわからない。でも、誰かが大きな決断をする必要がある。こんな時代の大転換のようなときに、香君という活き神の存在が、良くも悪くも際立ってきます。祈りを捧げ、その存在に、声に、絶大な信頼をおく、ということは、人々が自ら考え、決断することを放棄できる便利な言い訳になるのです。かくして、ウマール帝国の皇帝オードセンも、全土のオアレ稲焼却の発令を香君に託そうとします。
これに断固反対のマシュウの兄イールと、皇帝をうまく自分の作戦にのせるマシュウ。ここでもそれぞれの考えがぶつかり合います。

それからのアイシャの活躍は圧巻でした。なんと賢く勇気のある少女なのだと信じられない気持ちで読み進めました。しかしそのうちにわかってきたことは、オリエがあってのアイシャなのだということ。香君をアイシャに引き継ぐことになったオリエは、アイシャのような特殊な力はなくとも、香君として立派に自分の考えを持ち、それをアイシャと共有したのだとわかってきます。
「香君」を崇め奉る、いわば信仰から人々を解き放ち、「香君」も生身の人間であると知ってもらうこと。そしてオアレ稲だけに依存しない経済を作っていくこと。それに向かってアイシャは「香君」でありながら、旅をつづけ、農夫たちに混じって活動していきます。

マシュウの父が過ごしたという異郷の地については、結局詳しいことがわかったわけではありませんでした。アイシャやマシュウの母親たちがなぜそこから来たのか。オアレ稲が呼び続けたパリシャとは何か、なぜ来なかったのか、などなど謎は深まるばかりですが、異郷はそのようなベールで包まれていた方がいいのでしょう。

アイシャが孤独な「香君」になってからも、オリエのような過酷な人生を歩まずにすむことにほっとしました。そして、オリエが普通の人間としてこれから暮らしていけることがうれしかったです。

ファンタジーでありながら、現実世界の縮図を見せられているような物語で、作者の筆力や、何よりもその知性にため息しかでませんでした。素晴らしい物語です。

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うり子
うり子

マシュウの戦略、兄イールの作戦、皇帝オードセンの考え、誰がどのようにこの困難を導こうとしているのか、その裏にどんな思いがあるのか、私の小さな脳が一生懸命整理しようと頑張りましたがついていけなくなりました。残念。為政者というのはこんなにも先を先を見据えて決定をくだしていかなくてはならないのかと、変なところで感心しました。まさに世界の縮図。素晴らしいファンタジーでした。

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