【読書感想】死んでいない者 滝口悠生

読書

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※登録は文庫版ですが、読んだのは単行本なので、「夜曲」という短編が読めず残念でした。

「やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)」で気になっていた滝口さん。どの作品から読むか悩みましたが、本書にしてみました。

読み始めて「ん?」と思いました。これはあまり読んだことのないタイプだぞ、と。たくさんの人が出てくる群像劇だとか、相関図があった方がいいだとか、セリフが括弧で書かれていないとかそんなことではなく、何かうまく言えないけれど、読んだことのないタイプの本だと思いました。ちょっとググってみて、すごく納得。これは、芥川賞受賞作だったのですね。おそらく芥川賞受賞作なんて今まで読んだことありません。あ、嘘でした、今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」は読んでいました。端的にいうと、芥川賞受賞作はたぶん私には無理だろうという苦手意識があるのです。なので、非常に納得。本作も苦手なタイプでした。

亡くなった祖父(とにかくたくさんの親戚が出てくるので、誰目線で呼称してよいかわかりませんが、とりあえず)の通夜に集まった親戚一同の思い、行動、過去と現在、その他諸々という感じでした。親戚付き合いが少なく、兄弟姉妹が多い家系でない私には、誰だかわからな親戚がいたり、年の離れたいとこが複数人いるということ自体経験したことのないことで、名前を覚えることが苦手なこともあり、相関図を書こうかとなんども途中で思いましたが、そのままなぁなぁで読むことにしました。

これだけたくさんの親戚が集まると(故人にとってはひ孫にあたる小さい子までいる)、当然ですが色々な人がいるもので、蒸発してしまっている者、その蒸発してしまっている者は妻にも去られているので、両親ともに不在で暮らしてきている兄弟、中学から学校に行かなくなり、故人の晩年には庭のプレハブに住み込み、故人と共に暮らすことになった孫などもいて、ハッと興味のような意識を持っていかれることがありました。
何が起きるわけではなく、記述の中心になる人物はコロコロと入れ替わりますが、視点は何となく上からという印象がありました。
「死んで居ない者」を中心に「死んでいない者」がまるで日常から切り離されたような時間をともに過ごしながら、しかし、それぞれを生きている、ただそれだけと言ったらそれだけのストーリーです。そうなのですが、通夜という独特な時間、空間を見事に利用しているなぁ、と感じました。それと同時に、このなんてことのない人たちのなんてことのない人生がなんだかと尊く感じられました。
先述したように「苦手なタイプ」の本だったのです。ですが、なんか、よかったです。誰がついているのかわからない鐘の音を想像しながら、葬儀が終わったあと、日常へとそれぞれ戻っていく親戚一同が脳裏に浮かびました。

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うり子
うり子

不思議と心地よい読後感でした。非日常に日常の回想などを入れることで、通夜という独特の雰囲気をより鮮明にしている気がしました。たまたま興味を持った本がこういった良い読書経験になると本当に嬉しいですね。

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