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「津村記久子さんの作品を集中して(といっても3冊)読んでみよう」の二冊目。
4つの短編によって成る「職場の作法」と、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」と、表題作が収められた作品です。
「職場の作法」は津村さんお得意のお仕事小説。まぁ見事なまでに会社内の人や人物関係や、仕事のやり方などが詳細に表現されています。「ブラックボックス」では、仕事における田上さんの自らの自尊心を守る仕事のやり方に拍手。「ハラスメント、ネグレクト」では、空気を読めない上司あるあるに、大いにうなずいた。「ブラックホール」では、これまた人の机にある文具を勝手に持っていっちゃうおじちゃん社員のあるあるにうなずき、「小規模なパンデミック」では、「次の日に出社すると、だれだれが休んでいた。病欠らしい。詳しいことは訊かないけれども、インフルエンザだろう。」という文章が繰り返し出てきて、社内のインフルエンザ蔓延を語っており、もうこのセンスに参りましたという感じ。ありきたりな言い方ですが、お仕事小説で津村さんの右に出る人はいないんじゃないでしょうか。本当に、誰もが経験しているような、なんてことないと思うようなこと、ちょっと心が動いたくらいで忘れちゃうことを言語化することに長けていらっしゃる。
そして、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」。主人公がたまたま目にしたフィギュアスケート選手が気になり、その人についての情報を追っていく日常。といっても、熱狂的なファンとか、それこそ「推し活」とはちょっと違った感じで、なんなら保護者的な立場でその選手の情報を追っているのが、また面白い。会社の先輩である浄之内さんはマイナスの作用を持っていて(というか、そう主人公が怪しんでいる)、応援した選手はことごとく怪我などに見舞われるし、応援したチームの優勝はほど遠い、というところなんて津村センス発動以外の何物でもない。私もミシェル・クワンが好きだったし、アレクセイ・ヤグディンやフィリップ・キャンデロロも見ていたけど、クワンが尻もちをついて銅メダルだったというオリンピックについては、全然記憶がないので、私のフィギュアスケート好きも、熱したり冷めたりだったんだなと、自分とちょっと重ねて読めたところもよかったです。今は、多分に漏れず、坂本花織さんが好きです(オリンピックがんばって欲しい!)。
「とにかくうちに帰ります」は、埋立洲で働いたり、塾に行ったりしていた4人が、豪雨による交通機関の乱れのせいで、徒歩で橋を渡って本土まで帰還し、そこからなんとか公共交通機関に乗れるまでのことを描いた作品。こう説明するとたったそれだけのあらすじなのに、なぜかすごく面白い。同じ会社の先輩後輩である、ハラとオニキリ、会社員のサカキと小学生のミツグ。なんていい人たちなんだ。うちに帰れてそのうちに屋根があって、雨がしのげるってなんて幸せなことなんだ。
感想が短いわりにすごく良かったことをどう伝えたらよいのやら。
本作の感想もこう締めたい。「津村記久子すごい」。
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あらためて自分のレビューを読むと、この作品の面白さが全然伝わらない!悔しい!

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