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たまたまネットで大井実さんのインタビューを読み、「自分の仕事は自分でデザインする」とおっしゃっていたのが気になり、本書を借りてみた。もうそろそろいい歳になってきてこのまま今の仕事を定年まで続けるのかなーとここ数年悩んでいたからこそひっかかった言葉だった。
その大井さんは、出版社などでの業務経験はなく、書店でアルバイトしただけで、福岡市で本屋を始めたという強者。全国チェーンの大手書店にはない魅力がたっぷりな本屋さんのようでとっても行ってみたい。こういう本屋で目についた本を手当たり次第に買ってみたい。切望。
唐突に本屋を始めたように感じるが、当然大井さんはそれまでのさまざまな経験を通して、「本屋の企業」に色々と役立つ知識なり感性なり、人脈なりをストックしてきている。このストックが自分にはないところで、経験が絶対的に少ないことを含め、これまでの自分の守りの人生をちょっと後悔してしまう・・・
こういう、人とはちょっと違う発想をしたり、大胆な行動をしたりする人は概して興味の範囲が広い気がする。大井さんも、読書はもちろん、高校時代のラグビー、音楽、イタリア、オペラ、コーヒーなどと多方面に興味を持ちアンテナを張ってこられたようだ。器用だなーと羨ましいかぎりだ。
大井さんがこのような小さな書店を始めた理由のひとつに「まちづくり」があるようで、そこも興味深かった。これについては大井さんがイタリアに住んでいた時に感じたことが大きなきっかけになっているよう。曰く、東京への一極集中が進み、地方が疲弊して、チェーン店だらけになってどこの地方都市も同じように見えてしまう日本と違い、イタリアでは都市国家的な伝統があり、それぞれの街が小国家みたいに互助的、民主的に成り立っており、地方の独立心が旺盛で、互助的な地域コミュニティーは心地よかった、「ローカル」の原点をみて、美を感じたとのこと。大井さんが本屋を構える福岡市もコンパクトな都会で地方都市としては人気があるようだが、おそらく大井さんは書店経営を通じて、もっとイタリアに近い、ローカルな福岡を作っていきたいんだろうと感じた。
さらに、本屋開業を阻む業界独特の仕組みについても、たくさん言及されており、普段から自分の職場における効率の悪さや仕組みの悪さに辟易している私は、あぁ、大井さんもこんな独特な悪しき仕組みと戦っているんだな、と変に親近感を覚えた。理解したかは怪しいけれど、共感だけはバッチリだった。
大井さんが本書の中で名前を出している、似た感覚で経営されている地方の書店をひとつひとつ巡ってみたい、紹介されている書籍も読んでみたい、そう思った。
(特に「アルケミスト」と「夜と霧」は早く読みたい。超有名で気になっていたにも関わらずまだ読んでいない・・・)
それにしても、人が仕事をする意味も、仕事を作り出す意味も十人十色で大いに刺激を受ける(大井さんだけに)。これから、私も何か見出せるのか、何か夢中になることに出会えるのか、「人生が何をわれわれに期待しているのか」がわかるときがくるのか、楽しみになりました。
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まさに「自分の仕事は自分でデザイン」している方の本でした!それにしても、自分の本屋を自分が置きたい本だけでいっぱいにするってなんて夢のように素敵なことだろうと思いました。
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