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登場人物が多いので、読み始めは新しい名前が出て来るたびに「うぅ~」と思いながら必死に頭に入れ、住宅地の地図を確かめ、の繰り返しで、一通り把握するまでは我慢(?)の読書ですが、津村記久子さんだもん、絶対楽しくなる、と思うと、このうじうじタイムも楽しいもんでして・・・
それにしても外からは見えない各家庭の抱える不安要素というか、”不幸”とよぶほどではないかもしれないけれど、当人の心には確実に影を落とすであろう様々な事情がうまく描かれていて、本当に津村さんはうまいな~と思わされます。私はやはり、子どもが関わってくると非常に辛くなるので、お母さんに好きな人ができるとネグレクト気味になる矢島家と、息子がどこかにひょこっと行ってしまわないように閉じ込めようとする三橋家については、読んでいて胸が苦しくなりました。子どもは子どもでも長谷川家の男の子は、自分が優位に立てると思った相手には攻撃的な口調になる馬鹿さに将来を案じるとともに、げんこつのひとつでもしてやりたくなりました(え、昭和?)。その姉の千里がまともでほっとしました。
さて、こんな人たちが住む、一見「つまらなそう」な住宅地にちょっとした事件が。なんと刑務所から脱走した犯罪者が、近づいてきているというのです。どうやらその受刑者、出身が近くの町らしい。そして、罪は横領らしい。横領した金には一切手を付けていなかったという記述で、もう、なんかある、と思います。(そりゃそうだ、小説だから。)
それでこの逃亡犯をこの住宅地のみんなで見張ろうと丸川さんが提案するのですが、それもちょっと変だし、見張る場所に自宅の二階を快く提供する笠原夫妻もちょっと変だし、見張るのに邪魔な木を剪定するために隣の大柳さんに依頼して大柳さんもそれを引き受けるのもちょっと変だし、そもそも夜中の見張りに駆り出されて、みんな「はいはい」となるのもちょっと変だし、もうなんだか私の感覚からするとみんなちょっと変で、でもそのちょっと変と思う私がちょっと変なんじゃないかと思ったりして、結局、つまり、とても面白い小説でした。人と人のつながりってこうやって生まれるんだ、と、まるで自分がひきこもって社会とのつながりが一切ないような感想を持ってしまいました。
えぇ、こんなところでつながっちゃう?!という人間関係で、それが功を奏して(?)、何かと不安な家庭環境や不穏な空気を醸し出す住民をも全てひっくるめて丸く納まっちゃうんです。そう、つまらない住宅地のすべての家に光が差し込むというかなんというか。この逃亡犯事件がなかったら、犯罪や犯罪もどきを犯しそうだった人も丸く納まっちゃうんです。人生って、意外とほんのちょっとのことで大きくこれから歩む道が変わったりするもんだとしみじみ思いました。
木内昇さんの解説で、山崎さんが矢島さんとこのみづきに常に敬語であることに「胸を打たれる」と表現していて、いや、本当にそうだな、と読み終わってそのことがじわじわと心に広がりました。そして木内さん曰く、この温かいエンディングは「この世の中を生きていくうえで不可欠な広い視野を、他者との関わりを経て、それぞれが手に入れたから」という気がすると。ホント、それ。解説者はすごいな~。
横領で刑務所に入っていて脱走した、このお話の起点となった日置昭子が、なぜ横領した金に手をつけなかったかは、意外にも深い事情ではなかったですが、彼女のおかげでこの住宅地の全ての家に変化があったわけです。化学反応のようでした。
いやぁ、読めば読むほど津村記久子さんという作家を尊敬します。どの作品も、すごく面白い。
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大団円というわけではないけど、どの家にもマイナスになることはなかったわけだからやっぱり大団円なのかな〜。とにかく面白かった。

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