【読書感想】ディス・イズ・ザ・デイ 津村記久子

読書

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表紙のあらすじをちらっと見て、ふむふむサッカー小説ね、とサッカーにそこまで興味のない私は内心ちょっとがっかりしたのですが、
ー待てよ、津村さんのスポーツ小説ということは絶対楽しいやん
とすぐに手のひら返し。というのも、「とにかくうちに帰ります」かなんかに収録されていたあのフィギュアスケートの話を思い出したのでした。あれ、とっても面白かったです。

さっそく、一ページ目からめくっていくと、たくさんのサッカーチームのエンブレムがわっと目に入ってきました。
ーこのチーム名も、このエンブレムも全部津村さんが考えたの?!すごい!
と思ったのも束の間、一位に輝くチームの名前が「カングレーホ大林」で、目が釘付けになりました。「大林」の部分は覚えていなかったけれど、「カングレーホ」は覚えてる!
ーあれよ、あれあれ。そう「この世にたやすい仕事はない」に出てきたチームだ!
初っ端からなんだか嬉しくなって、ワックワクしながら読み始めました。

一話目は、地元チーム(通称「三鷹」)が二部から三部に降格してしまったのを機に応援をやめてしまったことになんとなく負い目を感じている主人公が、スタジアムで偶然出会った対戦相手サポーターの友人と一緒に観戦しているうちに、その友人が実は全然サッカーというかJリーグに詳しいわけではなく、その試合は実はその友人が応援するチームにとってリーグ残留か降格かの大事な試合だったのに(プレーオフがかかっているんだったかな・・・?)、それも知らずに純粋に応援している姿に、新しい世界を知る、というような話でした。

ちょっと脱線して本筋とは全く関係ありませんが、「ブラウザがもじもじと情報を探している間」とか「細いキャビネットは、なにをするのという具合にふるふる揺れて」といった表現がなんかツボにはまりました。

一作目からほどよく共感できる作品でした。
というのも、私は福岡生まれ福岡育ち、10年以上福岡を離れていた時もあったけれど、再び福岡に戻ってきた身なので、ラーメンといったら「とんこつ」というように、プロ野球といったら「ソフトバンクホークス(ダイエーホークス)」なのですが、熱く応援するときもあれば、「あ、優勝したの?」くらいの温度感の時もあります。今は息子が野球をやっていることもあって家族そろって「熱い時期」なのですが、それでもなんというか「ホークスについてちょっと知っている」「試合の結果はチェックするけど、試合ごとに詳細をチェックするわけではない」「多忙につき、ドームでの応援にはなかなか行けない」という状況なので、真剣に三鷹を思うあまり、中途半端な応援ではいけないと思っているであろう主人公がとても好印象だったのと同時に、どんな「熱心さ」でも「応援していいんだ」と開眼する様子に「そうよ、そうなのよ」と大いにうなづいたのでありました。いや~、一作目から楽しかった。

それからもちろん第2話、3話と続いて、どれもこれも、もう本当に人の心情描写がうますぎて・・・なんでこんなにも十人十色のサポーター心理を巧みに描けるのでしょう。

そしてそしてやってきた第5話の「篠村兄弟の恩寵」がまたよかった。サッカーが、ひとりのサッカー選手がこんなにも人の心をつかんで、その人の励みになるような存在になるなんて、尊すぎて身悶えしました。これこそ、プロスポーツがある意義の一つなのでしょう。篠村兄弟、がんばれ!二人に幸あれ!窓井選手ありがとう!

第7話、「権現様の弟、旅に出る」はまたおかしい。ところどころ、くくくくと笑わずにはいられない場面がありました。神楽とサッカーという意外な組み合わせが見事にマッチしていて、そして、職場のパワハラもスルーできる力が、神楽とサッカーによってもたらされていると思うと、ちょっと感動しました。

第9話のおばあちゃんと孫の話もコンパクトで大きな出来事が起こるわけでもなく、淡々と進んでいくけれど、おばあちゃんと最終戦を観に行くということ自体がこの話ではすごく大きな出来事で、なんだかとっても良かったです。

それぞれのエピローグも良かったです。あぁ、なんて爽やかな読書だったんでしょう。

それにしても思います。サッカーにしろ、野球にしろ、スポーツ観戦が趣味って、なんて健全で尊いんだろうと。本書を読んでいる時期がちょうどW杯と重なり、サッカーに疎い私もにわかに「サッカー好き」となり、試合の行方を気にする日々が続きました。さすがに夜中の2時からの観戦ができるほど若くないのでしたが、その後のニュースを読み漁っては悔しさが込み上げてくると同時に、W杯の期間を、喜び、感動、そして悔しさで生き生きと過ごせたことに感謝したのでした。家族みんなで「にわかファン」になり、夕食での会話も弾みました。あぁ、やっぱりスポーツが趣味って健全で尊い。それをしっかり文章で表現したのが本書だったと思います。

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うり子
うり子

津村作品には、ちょいちょい職場でのパワハラとか、恵まれない境遇の子どもたちが出てきます。重すぎない出し方が逆に胸に深く入り込んで、色々と考えるきっかけになります。そういった意味でも、本当に描き方がうまい作家さんだな、と思わされます。

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